メインコンテンツに移動
  1. ホーム
  2. 蒸気のお役立ち情報
  3. もっと知りたい蒸気のお話
  4. ヒートポンプ給湯機と蒸気加熱の比較

省エネルギー

ヒートポンプ給湯機と蒸気加熱の比較

 

蒸気加熱の代わりにヒートポンプ温水機を使うことは可能か?

近年ヒートポンプの能力が向上し、家庭用では給湯機(エコキュートなど)以外にもエアコンや乾燥機能付き洗濯機などに、また街中で見かける自動販売機にも採用されるなど、広く応用されています。

ヒートポンプは原理的に投入した電気エネルギー以上の熱エネルギーを取り出すことができる、つまり100%を超える効率を実現できる技術であるため、産業分野においてもこれまで主に蒸気が担っている温度域へ応用することが検討されてきていますが、これまでのところボイラーを発生源とする蒸気による加熱システムとの置換はあまり普及していないようです。

蒸気加熱システムが使われている産業分野の工程を、ヒートポンプ給湯機による加熱に置き換えることは省エネルギー、地球温暖化対策としてどの程度有効なのか考えてみます。

 

ヒートポンプ給湯機とは

通常、熱は高温熱源から低温熱源に流れます。その熱量を動力として取り出すのが熱機関です。

ヒートポンプはその逆に外部から動力を加えることによって低温熱源から高温熱源へ熱を移動させる技術です。それにより、低温熱源はさらに低温に、高温熱源はさらに高温にすることができます。

低温熱源側を利用するのが冷凍機であり、高温熱源側を利用するのがヒートポンプです。両者の原理は同じです。

熱風生成と除湿を同時に行う乾燥機能付き洗濯機やホットとコールドの両方を販売する自動販売機など、低温側と高温側の両方を同じ機器内で利用できる機器とは相性が良いと言えます。

熱力学的モデル図

 

ヒートポンプ給湯機が蒸気加熱の置き換え候補になる理由

ヒートポンプ給湯機が蒸気加熱の置き換えの検討対象になるのは、100℃を超える蒸気加熱がよく用いられる給湯が可能なものが存在するからです。とは言え、同じ温度域の加熱源としてはヒートポンプ給湯機以外にも、直火による加熱や電熱による加熱などがあります。また、温水を生成する温水ボイラーや熱交換器、温水槽に蒸気を直接吹き込む方法や、ミキシングバルブなどがあります。

その中で、ヒートポンプ給湯機が注目されるのはなぜでしょうか。
3点ほど重要なポイントが考えられます。

  • 通常は使い道がないとされる温度域の温排水を有効活用できる可能性がある
  • 動力としてエネルギーを使用するがバーナーやヒーターなど高温になる機器を使用しない
  • 装置としてのエネルギー使用効率が高い

置き換えを検討する目的・狙いは明確で、省エネ、エネルギーコストの低減です。

 

効率の比較でわかる、それぞれが得意な温度域

ヒートポンプ給湯機は電力を使用するタイプで比較します。蒸気加熱は燃料を燃焼させて蒸気を発生させるボイラーと比較します。

細かく見ると給水温度や外気温度などでも効率が変化するため、どこまでの範囲でどのように比較するかは難しいのですが、ヒートポンプ給湯機の成績係数(COP)、受電端発電効率、ボイラー効率などを、ある条件で仮定して、ヒートポンプ給湯機と蒸気加熱のどちらがエネルギー消費効率に優れているか、得意な温度域があるのかを検討した「温水製造におけるヒートポンプ加熱と蒸気加熱」 林 数郎 ボイラ研究 2020年2月 第419号を参考にします。

この記事では以下のように考察しています。

  1. 加熱温度50℃以下では、ほぼすべての条件でヒートポンプ給湯機の効率の方が高い。
  2. 加熱温度50℃以上では、条件によりどちらの効率が良いか異なる。
  3. 加熱温度160℃以上では、蒸気加熱システムの方が効率が高い。
  4. 加熱温度100℃以上では、設備的に蒸気加熱システムの方が合理的である。

なお、各業界・工程で行われる加熱仕事の温度域の例は下表のようになっています。
これを見ると、ヒートポンプ給湯機・蒸気加熱それぞれに工程によってマッチするものあまり適さないものがありそうです。

熱力学的モデル図

 

温度域が合えば置き換えは可能か

しかし、温度域が同じであれば問題がなくスムーズに置き換えができるものでしょうか?

問題となるかどうかは、工程によって異なります。
そして、置き換えを検討する場合には、両者には大きな違いがあることを確認しておく必要があります。
温水加熱と蒸気加熱の違いです。

ヒートポンプ給湯機は温水を生成します。この温水を加熱源として使いますので温水加熱となります。
蒸気は文字通り蒸気加熱です。
温水加熱と蒸気加熱の違いで最も大きなことは温水加熱が顕熱を利用した加熱であり、蒸気加熱が潜熱を利用した加熱であることです。両者の違いやメリットデメリットは蒸気加熱と温水加熱で述べています。

つまり、温度の均一性や加熱速度、必要な伝熱面積の違いなど、少なからぬ差異がある蒸気加熱から温水加熱への転換が可能であることが置き換えが可能な条件となります。

また、加熱温度100℃以上の場合に温水加熱システムを使用すると、温水タンクが圧力容器になったり、ポンプのキャビテーション対策が必要になったりして設備が大掛かりになります。そのため、加熱温度が100℃以上の場合には蒸気加熱システムの方が合理的であることが多くなります。

このような事情を勘案すると「蒸気で加熱することのメリット」を享受している工程では置き換えは容易でないと言えるでしょう。

一方で、加熱だけでなく冷却も同時に行う工程や、別工程であっても高温側を必要とする工程と低温側を必要とする工程を組み合わせてヒートポンプを適用できるのであれば導入することでエネルギー使用量を削減できる可能性があります。

小冊子プレゼント 温水製造におけるヒートポンプ加熱と蒸気加熱